本格水冷に関する覚え書き
実用上の話です。素人の走り書きにつき無保証。
雑感
現状主流の一般家庭向けデスクトップPC用水冷システムの存在意義は「熱を任意の位置に移動できること」にあると思われます。
空冷と異なり放熱部分の位置・形状を自由にできることから、冷却能力と静音性の上限を大幅に引き上げられますが、代わりにコストの問題と漏水のリスクが付きまといます。
特に漏水のリスクは実際問題としても心理的な障壁としても非常に大きく、メリットである冷却能力と静音性を大いに活用できなければハイリスクローリターンにならざるを得ません。
大雑把にまとめるとPC用水冷システムはデカくないと損と言えそうです。
例えばファン1~2個の簡易水冷ユニットなどは冷却能力や静音性の点でそれほど空冷に対してアドバンテージがなく、せいぜい排気設置にすれば庫内に排熱を出さずに済む程度のメリットしかないので、積極的に選ぶ理由はないでしょう。
もちろん絶対的なリスクは部品点数と可動部が増えるほど高まりますが、当方が事例を収集した範囲ではトラブルの原因は大半がヒューマンエラーであって、正しく組まれ正しくテストされ正しくメンテナンスされているシステムであれば、規模による信頼性の低下はそれほど大きくないように思います。
設計・部品選定
- 大まかな構成の確認にはEKWBのシミュレータが便利
- 静音化が目的ならラジエーターを大きく薄くしてファンを増やし回転数を下げる
- 冷却能力が目的ならバランスよく盛る
- 圧力損失と実揚程は小さい方がよい
- クーラントの温度が低い方が冷却効率は上がる
- 大容量リザーバーに実用上のメリットはない(注水時の手間が若干減る程度)
- アルミのパーツを他の金属のパーツと同一系統に混在させることは禁忌(イオン化傾向の違いにより電蝕が発生する)
- 銅・真鍮・ニッケル・ステンレスは混在していても問題ない模様
- ケースの図面や写真があればペイントソフトに切り貼りして配置をシミュレーションできる
- パーツも図面が公開されていることがある(例えばAlphacoolは一部のパーツの3D CADデータを公開している)
- 海外には水冷パーツの能力を細かく計測・比較しているレビューサイトが複数存在しており非常に参考になる
- 日本国内で調達できるパーツは全体の1割にも満たないと思われ、またほとんどのものが割高
器具・消耗品
あると便利なもの。
- 精製水(バッテリー補充液でOK)※必須
- 洗浄瓶(ロートでも可)
- エアダスター
- 清掃用ウエス(ティッシュやタオルは埃が発生するため仕上げ拭きには不適)→ キムワイプ
- 低発塵仕様の作業用手袋(軍手や綿手袋は埃が発生するため不適)→ トップフィット手袋
- ゴム手袋
- 塩化コバルト紙
検品
ひび・穴・裂け・欠け・材料の不良・めっきや塗膜の不良・工作の不良といった瑕疵がないか視覚・触覚・聴覚を使ってチェックする。
- 取り外し可能なOリングやガスケットなどは必ず外して確認する
- 軽い負荷をかけてみて異音がしないか・破損しないか確認する(外観に問題がなくても内部の瑕疵で異常が出ることがある)
- 可動部分が硬すぎたり緩すぎたりせず滑らかに動くかどうか確認する
- Oリングやソフトチューブなど柔軟性のある部品は変形させて傷が隠れていないか確認する
- 見た目ではわからない傷も指先の感触でわかることがある
- 透明度のあるものは照明にかざしたりフラッシュライトの光を当てて見るのが効果的
- フィッティングやホースクランプなどのチューブが直に触れる箇所はバリがないか特に入念に確認する
- ガラスやセラミックス等を叩いて曇った音・濁った音がする場合は見た目に問題がなくてもヒビが入っている可能性がある
容量の計測
重量を元にパーツの容量を計測する方法。g単位で測れるキッチンスケールやレタースケールなどを使用する。
フィッティング等の小型部品はシリンジで内部に滴下して測ってもよい。
部品の容量を事前に計測しておき、本番では注水量を確認しながら注水することで、経路中に空気がどの程度残っているか判断しやすくなる。
- 乾燥状態で重量を計測(接続口と同じ数の止水プラグと一緒に測る)
- 部品に注水し、満杯になったら全ての接続口に止水プラグで栓をする(外部に付着した水が気になるようならエアダスターやウエス等で取り除く)
- 満水状態で重量を計測する
- [3]から[1]を引いた値がその部品に入る水の量(1g=1ml)
チューブの場合
- 使用する長さにチューブをカットする
- スケールの上に水を受けられる容器を置いてゼロ点調整を行う
- 乾燥状態のチューブを容器の上に置いて重量を計測
- チューブの片側を指等でふさぎ、満水まで注水してからチューブ内の水を容器に空ける
- そのままチューブも容器に置いて重量を計測
- [5]から[2]を引いた値がチューブに入る水の量
洗浄
金属や樹脂の加工・成型には潤滑剤や離型剤が使われるが、洗浄が不十分で残留している場合がある。切り屑などが残っている場合もある。
また流通過程での塵・埃の付着も起こり得る。
配管内部に入り込むと詰まりやクーラント変性の原因になるため洗浄してこれらを取り除く。
- 分解できるパーツは可能な限り分解
- ただしウォーターブロックは判断が分かれる、リークテスト済の表示があるものは分解不要
- 取り外し可能なOリングやガスケットなどは外す
- 拭き取れる汚れは水を使った洗浄の前に拭き取る(塗膜の定着不良など)
- 材質毎に禁忌となる成分・pH・温度があるため、洗浄剤や水温と材料の相性は事前に確認する
- ロータリーフィッティング/エクステンダーにはOリングが内蔵されている点に留意
- 樹脂に対してブラシ類を使う場合は強く当てすぎないよう注意
- 温水による洗浄は効果が高い
- 浸漬する場合、熱容量の大きな部品(ラジエーターなど)は余熱しないとすぐに水温が下がる点に注意
- すすぎは入念に行う
- 最後に精製水ですすぎを行うかどうかは好みの問題な模様
個人的な手順
- 基本は「洗浄 → 水道水でよくすすぐ → 精製水ですすぐ → 乾燥」
- ゴム・樹脂は希釈タイプの中性洗浄剤を温水(水道水)で希釈して使用
- 金属は希釈タイプの弱アルカリ性洗浄剤を温水(水道水)で希釈して使用
- 指先やスポンジでこすり洗い、狭い場所はブラッシング、シャワーの水流も利用
- ラジエーター内部は何度か水道水でゆすり洗いをしてから洗浄液で「浸け置き→ゆすり洗い」を2,3回行い、その後よくすすぐ
試験
- 注水して行うリークテストには精製水を使用する
- ソフトチューブの場合、チューブを余分に調達しておき組み込む前に水冷部品だけを繋いでケース外でリークテストを行うとよい
- 実質ソフトチューブ限定だが、ポンプトップ以外のパーツを全て繋いでから水を張ったバケツ等に沈め、内圧を高めて泡が発生しないか観察すると微量のリークも短時間で発見できて効率的
- 本番と同じ構成でのリークテストはいずれにせよ必須
- テスト期間には数時間~数日と諸説あるが、本番運用開始後も1ヵ月程度は経過を観察する必要があると思われるため、観察期間中のチェック頻度に応じてテスト期間を設定すればよいと思われる
- 例えば観察期間中に毎日チェックするのであれば、1日で顕在化しない程度のリークは問題が起こる前に対処できる可能性が高い、つまりテストも1日でよい、というロジック
- リークの検出には塩化コバルト紙が便利、感受性が高いので少量でも検知できる(奥まったところも差し込んでなでるだけでOK)
その他
- 典型的な空冷用ヒートシンクと水冷システムのパーツを対応させると「ヒートパイプ=配管+クーラント」「フィン=ラジエーター」「作動液の循環機序=ポンプ」
- 紫外線は多くの樹脂を劣化させるため日光に長時間晒される場所への設置やドレスアップ用UVライトの常時点灯は禁忌
- PWM制御のポンプをPWM信号pinがオープンのまま回すと回転数が上がらないことがある、その場合PSUからの5Vと信号pinをショートすると回る可能性がある(参考)
- ソフトチューブに付着した埃は粘着テープで掃除するのが楽
- フッ素系不活性液体は熱伝導率が低く、浸漬冷却でもなければ活かせない模様
- シリコンオイルの方が現実的だとか
未解決の疑問
- リーク対策用に別系統の配管を用意する例が見られないのは何故か
- ケースの物理的強度も内部部品の固定もそれほど強固ではないので、外乱を受けた場合の変形が大きく、ハードチューブは巷で考えられている以上に信頼性が低いのではないか